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浦和地方裁判所 平成6年(ワ)1391号 判決

主文

一  本件本訴請求及び反訴請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は本訴、反訴を通じてこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

理由

第一  請求

一  原告の本訴請求

被告は、原告に対し、金一三七万五〇〇〇円及びこれに対する平成六年三月二六日から支払済みまで年三〇パーセントの割合による金員を支払え。

二  被告の反訴請求

原告は、被告に対し、金一七一万五〇〇〇円及びこれに対する平成六年七月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件本訴は、金銭貸借の媒介手数料並びに貸付金及びこれらに対する約定支払期日の翌日から支払済みまで年三〇パーセントの割合による約定損害金の支払いを求めるものであり、本件反訴は、金銭貸借の媒介手数料として支払つた金員と同額の不当利得金及びこれに対する内容証明郵便による請求の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めるものである。

一  争いがない事実

1  原告は、平成五年一一月一〇日、被告に対し、五万五〇〇〇円を、利息の定めなく、弁済期日を同月一八日の約定で貸渡した。

2  被告は、平成五年一一月一八日、原告の媒介により、訴外ファーストクレジット株式会社から、金五五〇〇万円を借り受けた。

3  被告は、平成六年二月一八日、原告の媒介により、訴外松井智彦から金五〇〇万円を借り受けた。

4  被告は、原告に対し、平成五年一一月一八日三七万円、平成六年二月一八日一〇〇万円、同月二四日三〇万円、平成六年四月一五日一〇万円の合計一七七万円を支払つた。

5  原告は、貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)に定める貸金業の登録を受けていない。

二  争点

1  被告は、原告に対し、本件の借受金五万五〇〇〇円を弁済したか。

(被告の主張)

被告が支払つた一七七万円のうち五万五〇〇〇円は借受金の弁済である。

(原告の主張)

一七七万円は全額貸借媒介の手数料として受領したものであつて、五万五〇〇〇円の貸付金の弁済は未了である。

2  原告は、本件の二度に亘る金銭貸借の媒介につき、媒介手数料を請求することができるか。

(原告の主張)

(一) 原告は、貸金業の登録を受けていないけれども、原告の主たる業務はリホーム業であつて、リホームの依頼者からのリホーム資金の仲介の依頼があるときに限り、その仲介を従としているものであるから、貸金業法第二条にいう貸金業を営む者に該当せず、原告がなした媒介行為は貸金業法第一一条第一項に抵触しない。

(二) 被告は、原告に対し、平成五年一一月一八日、原告の仲介により被告が訴外ファーストクレジット株式会社から五五〇〇万円を借り受けるに際し、媒介手数料として右借受金の五パーセントに相当する二七五万円を支払うことを約し、また、平成六年二月一八日、原告の媒介により、被告が訴外松井智彦から金五〇〇万円を借り受けるに際し、媒介手数料として右借受金の五パーセントに相当する二五万円を支払うことを約した。

(三) 被告は、平成六年三月七日、原告に対し、前記貸付金五万五〇〇〇円、媒介手数料二七五万円及び二五万円の計三〇五万五〇〇〇円とこれに対する消費税九万円の合計三一四万五〇〇〇円から支払済みの一七七万円を控除した残金一三七万五〇〇〇円を、同月二五日に一括弁済する旨及びこれを支払わなかつたときは、以後年三〇パーセントの割合による損害金を支払う旨を約した。

(被告の主張)

原告は、登記簿を閲覧する、或いは貸金業者の事務所に出入りするなどして債務の返済に苦しんでいる者を見付け出しては、電話などによつて金銭の貸借を媒介しており、本件媒介も貸金業法第一一条一項に違反するものである。従つて、原告の本件媒介行為は民法九〇条にいう公序良俗に反するものとして無効なものであるから、原告は媒介手数料の請求権を有しない。

3  被告が原告に対し媒介手数料として支払つた金銭は、不当利得として被告に返還されるべきであるか。

(原告の主張)

(一) そもそも原告は貸金業者ではないから、貸金業者としての登録を受けていないからといつて、原告が受領した金銭が不当利得になることはない。

(二) 仮に、原告が貸金業を営む者に該当するとしても、被告に利益を与えこそすれなんらの損失も与えていないから、原告に不当な利得はない。

(三) また、仮に、右主張が受け入れられないとしても、原告が受領した被告主張の一七一万五〇〇〇円を含む一七七万円は、自然債務としては有効なものであるから、返還義務はない。

(被告の主張)

本件媒介契約は貸金業法第一一条第一項に違反する違法な契約であつて、民法九〇条にいう公序良俗に反するものとして無効なものであるから、原告が媒介手数料として支払つた一七一万五〇〇〇円は、不当利得として被告に返還されるべきである。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

本件の貸金債権五万五〇〇〇円の弁済期日は平成五年一一月一〇日であること、被告が原告に対し、平成五年一一月一八日三七万円、平成六年二月一八日一〇〇万円、同月二四日三〇万円、平成六年四月一五日一〇万円の合計一七七万円を支払つたことの各事実は当事者間に争いがなく、右事実及び《証拠略》によれば、被告は、原告に対し、平成五年一一月一八日、借受金五万五〇〇〇円の弁済を含むものとして三七万円を支払つたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。従つて、貸金債務についての原告の請求は理由がない。

二  争点2について

1  《証拠略》によれば、原告は、本件媒介契約締結当時、登記簿を閲覧したり貸金業者の事務所に出入りするなどして債務の返済に苦しんでいる者を見付け出し、電話などによつて金銭の貸借を媒介していたことが認められるから、原告は、当時、無登録で金銭貸借の媒介を業として営んでいたものと認められ、本件媒介契約は、貸金業法第一一条第一項に違反する無登録業者と締結した媒介契約であるというべきである。

2  ところで、貸金業法は、貸金業者(金銭の貸付け又は金銭の貸借の媒介を業として行う者)に対する規制によつてその業務の適正な運用を確保し、これにより、最終的には、資金需要者(借り手)の利益を保護しようとするものであり、そのため、同法は、貸金業者の登録制度を設け、一定の欠格条件に該当する者から登録の申請があつてもこれを拒否することとし、また、登録を受けない者の営業を禁止し、これに違反した場合には三年以下の懲役若しくは三〇〇万円以下の罰金又はその併科という罰則を規定している。

3  そこで、右規定に違反してなされた無登録業者との媒介契約の効力について検討するに、右規定が前記のとおりの法の目的を実現するためのもので、違反行為に対しては刑事罰をもつて臨んでいることのほか、違反行為が一般取引きに及ぼす影響及び当事者間の信義等を総合勘案すれば、無登録業者との媒介契約が公序良俗に反するものとして直ちに無効であるということはできないけれども、右媒介契約に基づく無登録業者の媒介手数料請求権は、国の機関である裁判所の判決による強制力をもつてその実現を求めることはできない、いわゆる自然債務であるというべきである。

4  以上によれば、原告の本件媒介手数料の支払い請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

三  争点3について

本件媒介契約による手数料債務が自然債務というべきであること前記判断のとおりであるから、被告の反訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

(裁判官 高橋祥子)

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